笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2012-02-29

高橋悠治・波多野睦美〜ことばを贈る から一年

高橋悠治・波多野睦美〜ことばを贈る 福山公演から、1年が経った。
少しその後のことを 今日は振り返りたい。

お二人のアルバム「猫の歌」も昨年7月にリリースされた。

「民衆に訴える」に始まるアルバムは、さまざまな時代と作品
それぞれが無数に支えあう木組のようにも、感じられる。

2010/11/29~12/1に、アルバムはレコーディングされ、
それは同公演より約3ヶ月前のこと、震災をまたいでの
リリースだった。

ライナーにも書かれている世の中が「大きく変わった」間に、
「大きく変わった」音楽のはじめの一歩が、そこにある。


収録されている「18の春のすてきな未亡人」「オンリー」
「長谷川四郎の猫の歌」は、神戸、福山の二公演でも演奏された曲。

「18の春のすてきな未亡人」での、ふたを閉じたピアノを打楽器として
演奏する音。手の厚い悠治さんの音は、芯のある大きな音だった。

「これはスネアだね。」といいながら繰り出すそれは、音量というより
質的に大きな音で、耳がピーンと引っ張られてしまうほどに強力な音色と
リズムだった。

ケージに抱いていた、意匠が前に出るようなシニカルさは感じられず、
かといって、フラメンコギターのタッピングのような興に任せたものでも、
もちろんない。

「オンリー」は、CDと驚くほど印象が同じである。
会場入り後ほどなく、ホールの響きを確かめるように無人の観客席で、
指を鳴らしながら歌ったそれよりは、かしこまっているけれども。

全体にゆっくりとしたテンポで歌われた「長谷川四郎の猫の歌」の
変容は興味深い。

~いびきたてて猫寝てた~ と、口元に可笑しみをたたえた味付けや、
「あさのまがりかどのうた」でのことばひとつひとつへのニュアンスの
加え方など、歌い手が曲に寄り添った「とき」が鮮明に見てとれる。

CDを聴くことで、逆にコンサートまでの期間の熟成が楽しめるなんて、
なんと幸せなことだろうか。

けれども音楽は、さらに遠くへと運ばれていく。

「今日は最初から弾こうかな。」と悠治さん、どうやら神戸ではいきなり
途中から始まったらしい「猫の歌」。
「なんでそんなことするんですかっ。」といいながら、波多野さんも
笑っていた。よくご存知のコトか、とも思いますが。



ところで、いつか、お二人でレコーディングして欲しい曲。

アンコールで演奏された、バルトーク:「20のハンガリー民謡集」 Sz.92内の
セーケイの緩やかな踊り(第2集 踊りの歌)/セーケイの速い踊り
(第2集 踊りの歌)。

この曲は、以前からも波多野さんはコンサートで歌っておられたことが、
後でわかった。(ピアノも、違うお二人との競演で)

リハーサルでまだウォーミングアップ中の抑えられた声が、
かえって、不安に彩られた「さびしいままのこころ」を心に刻む。
(波多野さんはきっと苦笑されるだろうが...)