笠岡市 めがねと補聴器専門店・ツザキが お店の日常と 小さなまちでの活動などを綴ります

2014-01-28

吉野 弘  「樹」 に捧ぐ


  吉野 弘  「樹」
     

  人もまた一本の樹ではなかろうか。
  樹の自己主張が枝を張り出すように、
  人のそれも、見えない枝を四方に張り出す。
   
  身近な者同士、許し合えぬことが多いのは、
  枝と枝とが深く交差するからだ。
  それとは知らず、いらだって身をよじり、
  互いに傷つき折れたりもする。

  仕方のないことだ。

  枝を張らない自我なんて、ない。
  しかも人は、生きるために歩き回る樹。
  互いに刃をまじえぬ筈がない。

  枝の繁茂しすぎた山野の樹は、
  風の力を借りて梢を激しくうち合わせ、
  密生した枝を払い落とす──と
  庭師の語るのを聞いたことがある。

  人は、どうなのだろう?
  剪定鋏を私自身の内部に入れ、小暗い自我を
  刈りこんだ記憶は、まだ、ないけれど


応神山・林道にて